芸術家外伝

野獣と呼ばれた男

20世紀の芸術は色彩の狂宴から始まった。フォーヴィスム(野獣派)と呼ばれる彼らの誕生は、色彩に大きな注目がなされるようになった印象派以降の画家たちの登場を思えば、当然の経緯であると言えよう。 その中心人物と見做されたのは1905年、サロン・ドート…

生命、情熱の造形化

19世紀の彫刻はオーギュスト・ロダンによって新しい一歩を踏み出し、近代彫刻への道を歩み始める。 彼は彫刻家カリエ=ベルーズのもとで修行したのち、イタリアを旅行し、ドナテロやミケランジェロを研究して自己の道を見出して行く。 1877年の『青銅時代』…

間奏4

とりあえず前回にて19世紀の美術が終わり、次回から20世紀に入るのですが、色々と困難があるようです。 第1に、著作権によって作品が Web 上に公開されていない芸術家が増えてくる。これはあと50年経過するとかなり厳しくなってくるでしょう。最悪、僕の手…

表現主義の出発点

オランダ出身のフィンセント・ファン・ゴッホは、伝道師などさまざまな職業を試みたのち、その不安に満ちた激しいな内面世界、宗教的感情を託す手段として絵画を選んだ。 修行時代には『ジャガイモを食べる人たち』のような、暗い色調で農民たちの素朴な生活…

反印象主義の印象派

ジョルジュ・スーラもまた、印象派を出発点としながら、そこにルネサンス絵画のような古典的な秩序を与えようとした。印象派の筆触分割の技法に対しても、スーラはそれが十分科学的でないとして、シュヴルール、ルードなどの色彩理論を厳格に適用し、規則的…

間奏3

と、理論的な分析は以上だが、この説明では彼の偉大さが伝わりにくいかもしれない。セザンヌは間違い無く現代美術に最も大きな影響を与えた一人である。なぜならこの後の絵画は、みなセザンヌの影から出発したと言っても過言ではないからである。何がそれを…

形態感覚の欠如

1880年代後半から1905年のフォーヴィスムの登場までの時代を包括するものに、ポール・セザンヌ、ポール・ゴーギャン、ジョルジュ・スーラ、フィンセント・ファン・ゴッホの4人を母体とする後期印象主義と呼ばれる便宜上の概念が存在する。 今回は4人のうち…

モネに対し

オーギュスト・ルノワールは初め陶器の絵付け工として働いていたが、1862年パリに出てグレールのアトリエに入り、モネたちと仲間になっている。 彼は絶え間なく変化する自然に目を向けたモネに対し、風景よりも子供や女性など人の変化に魅せられた。写実主義…

印象派

クロード・モネは疑いなく印象派を代表する最も偉大な画家である。ブーダンの感化を受けて画家を志し、パリを出てアカデミー・スイスやグレールの教室に学んでいる時、ピサロ、シスレー、ルノワール、バジールらと知り合って印象派のグループを作った。 印象…

都会人の生活様式の美と詩情

絵画における写実的、現実的な傾向は、19世紀の西欧社会全体の変動を背景とする大きな流れであった。しかし、それが芸術的表現に高められるには、優れた絵画的才能による伝統との対決を必要とした。 1980年代に登場するマネやドガ、そして後に印象派と呼ばれ…

巨人

フランスのダヴィッドとほぼ同年代を生きたフランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテスは世紀の転換期のスペイン美術をほとんど一人で代表する巨人であった。 イタリア留学のあとの王室のタピスリ工場の下絵描きの職について、風俗的なテーマをロココ風の華や…

幻視者

19世紀前半のイギリス絵画は風景画の黄金期と呼ばれている。それを築き上げたのはジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナーとジョン・コンスタブルの二人であるが、この節ではターナーのみに注目したい。 彼は18世紀に流行した特定の場所の景観を表した地誌…

支配層・労働者

1850年前後にオレノ・ドーミエ、ジャン=フランソワ・ミレー、ギュスターヴ・クールベの写実主義絵画を代表する三人の画家が相次いで誕生した。 ドーミエは世紀前半の風刺版画家としての長いキャリアから身に付けたカリカチュア風の大胆な省略法によって、社…

純粋な気持ちで

19世紀の前半の画壇では文学的あるいは歴史的テーマを描くことが主流であったが、そんな中で風景画のみを描き続けた画家たちがいる。それがバルビゾン派の画家たちである。奇しくも同じく時代にイギリスでも風景画の黄金期が築かれるのだが、それはまた次回…

ロマン主義の完成者

テオドル・ジェリコーは帝政末期に大陸軍の兵士や馬を描くことで画家として出発し、1816年に起きたフリゲート艦メデュース号の政府にの責任による難破事件という時事的なテーマを大作に描き上げて議論を呼んだ。『メデューズ号の筏』 このほか彼は短い生涯の…

狭い枠の中で

ダヴィッドの弟子の中で最大の存在はグロとアングルである。ダヴィッドの弟子の世代の作品には新古典主義が次第に変化してゆく様子が見られる。 アントワーヌ=ジャン・グロは『アルコン橋上のナポレオン』などのナポレオンの肖像と遠征の絵で画壇にデビュー…

真の叙述としての始まり

1789年に勃発したフランス革命からナポレオンⅠ世の第1帝政を経て、1848年から1852年の第2共和制期にいたる時代のフランス美術は、美術史では一般的に新古典主義、ロマン主義、写実主義の3期に分けられて考えられている。そしてヨーロッパの他の国々の同時…

間奏2

16・17世紀のイギリス絵画は大陸に著しく遅れとったが、17世紀末から18世紀にかけて若き教養人などによって大陸文化が流れ込み、イギリス絵画の質は次第に向上をみせる。イギリスの貴族の肖像画などはフランスのロココと違うため絵画の歴史上大事な要素の一…

遠い時代への架け橋

ロココ美術は新古典主義の時代でその放縦で享楽主義的な内容と感覚的な様式なために批判されている。工芸においては黄金期とされるが、貴族をパトロンとする従来の形式に変化がないためか風潮が一律の流れに統一されているために形容詞はどれも同じである。…

間奏1

本当は『一回につき2人までにしよう』と自分のなかで定めていたはずだったのだが、なぜか4人も紹介する羽目となった。それはこの時代のオランダが芸術において大きな転換期であり、素晴らしい画家が多く誕生したことに由来している。 僕がこの連載をするに…

孤高

狭義のバロック美術は建築ではボロミーニ、彫刻ではベルニーニに代表されるが、絵画の代表者はフランドル(南ネーデルランド)のリュベンスである。彼は17世紀初頭、10年近くイタリアに滞在し、古代と盛期ルネサンスの美術を学ぶ傍ら、活躍中のカルラッチや…

バロックと呼ばれた男

芸術は一般的に絵画のみに依存する傾向にあるが、彫刻と建築も芸術を語る上で外すことのできない分野である。現代に措いては垣根という垣根が取り払われ、主義ではなく各個とした芸術としての分岐を見せるが、それはまだ数世紀先なのでそれまでは絵画、彫刻…

カラヴァッジオの光

バロックという時代が前時代*1と決別を表し最初に新時代の幕を開いたのはアンニーバレ・カルラッチとされている。 『ファルネーゼ宮殿の天井画』に見られるように、人物表現の豊かさや構図などにおける動的なアクセントなどにはバロック様式の端緒が認められ…

序文

これから書くにあたって、どの時代から始めるか悩んだ。潔くプリミティヴ・アートから始めようかとも考えたが、紀伝体にするためには芸術家が台頭してきた時代以降でなければ成立が難しい。芸術家と言う存在がその作品よりも表に出だしたのは、およそルネサ…