伊藤淳伝 -恋破れてアニヲタあり編-。


長かった伊藤の物語もここで一旦節目を迎える (上の写真は考える伊藤)。
現在も伊藤は並々ならぬ研鑽の日々の中、新たな伝説をこしらえているが、二十代前半という括りでのエピソードはこれでひと段落となる。

伊藤、上京す。

2008年の夏、伊藤が二度目の富士山へと登ったときのことであった。彼は同じ山小屋で働く女性と恋に落ちた。
恋は時には盲目である。彼女が関東での在住を望んだため、伊藤は富士山で稼いだお金を元に就職先は二の次で、裸一貫上京したのであった。
時は、2008年の10月、世界経済を揺るがす大事件が起こった実に半月ほど後の話である。察しのよい方は思い出して頂けたかもしれないが、リーマンブラザーズが倒産したのであった。
伊藤のママチャリで北海道を目指すほどの無鉄砲さと運の悪さがこれほどまでに追い討ちをかけた出来事は他にないだろう。それまで、日本は過去最高の好景気と報道され、伊藤の中ではとりあえず上京してから就職を探そうという考えであった。
だが、時は無常である。たった一ヶ月の差が伊藤の明暗を分けた。
最悪、派遣でも見つけて食いつなぐという甘い考えは、11月から始まった派遣切りの前に脆くも崩れさった。彼女は彼女で就職試験の真っ只中。伊藤を助けようにも自分のことでいっぱいであるし、伊藤も自分の為に彼女を道連れにすることは出来ない。
伊藤の頼りとなるのは酒しかなかった。

酒と伊藤と新なる道。

家とハローワークを往復する日々の中、酒量は増え続け、幻覚、幻聴、震えなどを引き起こし、またそれを御するため酒を呷るという黄金の悪循環が瞬く間に構築された。
精神科にも通った。鬱認定された。そんな伊藤を救ったのが一本のDVDだったのだ。
それは、銀河の妖精とシンデレラガールがキラッ☆とかいう感じの物語で、私が酒浸りの日々から救う為に送りつけたものだった。

伊藤は私にこう言った。
『もっと、香ばしいやつをくれいっ!』

そこで、私は当時絶賛放送中であった虎と竜のラブストーリーをプッシュしたのだった。
これが、伊藤のピュアハートを極限まで刺激。伊藤は見事復活し、アニヲタとなって明石へと帰ってきたのであった。
電波状況の関係からテレビ東京系は視聴できない伊藤は、我が家にきてしっかりと最終回を見ていった。
『明日から何を頼りに生きて行けばいいんや?』と私に問いかけた。
『来期はけいおん!というのが注目らしいぞ』そう答えた。
そして伊藤は、
『しかし、最後のセーラー服はサプライズやったな』と締めくくった。

陽はまた昇り、伊藤は富士へ。

2009年夏、また富士山へと登る伊藤は
けいおん!の最終回を生で見れんのが唯一の心残りよ。萌え萌えキュン!』
そういって、どっぷりけいおん!につっぱまって富士へと消えて行った (第一部完)。