奴が出た。

部屋の片付けをしていたら奴が出た。黒くて素早い奴である。
昆虫系は別に嫌いではなく、茶色の毛虫とか大好きだし、蜘蛛などもあまり巨大でなければ手に可愛がるくらいな僕でも、黒くて素早い奴だけは本当に駄目だ。似たような玉虫や、コオロギ、カミキリムシなどオールオッケーなのに、奴だけは無理。見たときは、全身の毛穴が開きまくって、エマージェンシーコールが鳴り響き、逃げ出したい気持ちを必死に抑えて、焦りながらも殺虫剤を手に取り、ひたすら奴が目撃された周辺一帯を毒ガスで充満してやった。
しばらくして、付近のものを恐る恐る除けて見ると、仰向けになって足をバタつかせている奴がいた。棚の奥だったので、エアダスターで何もないところまで吹き飛ばして、マルアイという近所のスーパーのチラシに包んで、苦しまないように確実に息の根を止めたあと、窓の外に投げ捨てた。
格闘時間15分。今日は枕を高くして眠れるぜ。
しかし、蚊を殺すのも躊躇う僕が、憎むものにはこうも残酷になれるのだろうか。自分でも不思議に思う。